雛人形

現在、京人形の主流を占め、最も大量に生産されている衣裳着人形です。 雛人形の歴史は古く、その起源は平安中期(約1000年前)にまでさかのぼります。
雛はもともと「ひひな」あるいは「ひいな」と言い、『契沖雑記』には大きなものを小さくする意味とありますが、 鳥のひなの鳴き声からと言う説もあり、語源は定かではありません。神聖な祓えの道具であった人形が、 貴族の子女の間で「ひいな遊び」となり、やがて美しく着飾った雛人形に変化してゆきました。

工程手順

頭(かしら)

1. 桐の木の挽き粉をしょうふのりでねる
2. 義眼を固定する。(義眼を入れる)
3. 筆で丹念に書上げる。 面相筆で眉毛、髪の生え際を書く。
4. 口に紅をさす。
原形作成 木彫りで頭の原型をこしらえる
雌型作成 松脂または樹脂で原形の型をとる
生地押し 木のひき粉・生麩糊・軸を混ぜ、型に入れる
乾燥 培炉で乾燥
彫塑 形の修正
眼入れ 義眼(ガラス)をはめる
地塗り 胡粉・にかわで下地を塗る
置上 胡粉で肉付けする
中塗り 胡粉を塗り重ねる(5~8回)
木拭き さらし木綿で表面の凸凹を修正
さらえ 小刀で目・口を彫り起こす
トクサがけ 木賊で表面を滑らかにする
上塗り 液状の胡粉を塗る
マユ・口紅・生え際 日本画用の粉絵の具で筆入れ
磨き さらし木綿で更に磨く

A髪付け師へ

髪つけ

1. 髪の毛をうえつける溝を掘る。
2. 小刀で押さえて溝に木目込む。
3. 左右の髪を上げる。
原糸 生糸(残糸)
黒染 黒染・油気抜き(黒染業者に外注)
コテを当て伸ばし、ツヤを出す
【A】頭にミゾを彫る 小刀で髪を植え付けるための溝を彫る
植髪 糊で髪を植え付ける
はりぬき作成 ひな人形のおすべらかしの型和紙を重ね、糊で貼りあわせる
ひな人形型付け はりぬきをニカワで接着
結い上げ くし、かんざし、さいし等髪飾りを差す

B着付け師へ

小道具…垂桜冠(男雛の冠の場合)

1. 木型に和紙を貼り付け、型を取り、胡紛を塗る。
2. 墨で溶いたのりを貼り、紗を貼る。
3. 仕上げに漆を塗る。
木型
型取り 上質和紙・糊
胡粉塗り 灰色胡粉
紗布張り 表面に網状の紗布を張り重ねる
かんざしを差す 巾子にかんざし(竹の棒)を横に差す
塗料塗り カシュー塗料
桜を立てる 桜はボール紙に紗布を張り、塗色する

D着付け師へ

手足

1. 桐の木に指となる針金を差し込む。
2. 地塗りで肉付けした手を削り磨く。
3. 上塗りを重ねた手につめを書く。
木地 桐板
形取り 板を鋸・カンナで裁断し、長さ・太さを揃える
孔あけ キリで針金(指)を差し込む孔をあける
針金を差し込む 紙巻き針金を所定の長さに切り揃え、孔に差し込む
針金を曲げる 指の形に応じ針金を曲げる。手首の部分を削る
地塗り 胡粉・ニカワ
指を彫る 五指の区切りを小刀で刻み込む
トクサがけ ペーパー磨き・トクサがけ
上塗り 胡粉・ニカワをかける
爪に色を差す 指先に爪の色を差す

C着付け師へ

着付け

1. わらを和紙で巻いた胴を寸法に切る。
2. わらの胴に襟の土台と手足を付ける。
3. 胴組したわら胴に衣装を着せ付けていく。
胴作成 稲ワラを束ね、糸・和紙を巻く
板付 人形に応じた大きさのベニヤ板をボンドで付ける
【C】手足取付 男物は足を付け、女物は手のみ
針金を胴に差し込む ポーズに合わせあらかじめ針金を曲げる
着付け 襟…和紙で着物の型を作成
胸… 和紙を金襴や友禅などの裂地に張りあわせる
上着… 裁断・仕立て・糊付・糸縫い
腕折り…ポーズ付け
【B・D】頭をつける 髪付けの終わった頭部をつける

完成

鎧兜

1. 鍛えた鉄板を重ね、鉢の形に繋ぎ合わせる。
2. 強固さを増すため、生漆を鉢に塗り、火で焼き付ける。その後、何度も塗り重ねる。
3. 小札(こざね)も塗り固める。地金から切り出す鍬形に鳥毛模様を打ち出す。取り付ける金具には主に銅を使用し、彫金や鍍金など加工を施すものがあり、覆輪には本物の銀さえ使われる。
4. 飾り金具を取り付ける。錣(しころ) (※小札:こざね)を絹の糸で威す。(おどす:紐を通す)
5. 完成

雛人形いろいろ

雛人形にも種類があるの?時代の変遷とともに移り変わってきた人形の種類を紹介します

立ち雛
おぼこ雛
亨保雛

【立ち雛】
季節の変わり目に邪気を祓い、「ひとかた」に穢れを移して水に流す風習から人形は生まれました。
ひな人形の原点は、それらの「ひとかた」から派生したシンプルな立ち雛です。
呪具としての人形から、子供のひいな遊びが流行した平安時代、貴族の姫君たちが遊んだ「ひいな人形」もこのような形だったと思われます。この当時は内裏雛という観念はありませんでしたが、「源氏物語」には人形とともに小さな御殿(内裏)なども描かれており、人形の周囲の道具や小物も既にあったことがわかります。
男雛は烏帽子に小袖、袴、女雛は小袖に細帯が一般的です。頭は紙もしくは藁を芯にしてつくり、それに胡粉を塗って鼻を盛り上げ、目鼻や口を描き入れました。

【寛永雛】
現存する江戸期最古の内裏雛の様式です。寛永文化を時代背景に生まれました。立ち雛から変じて立体的な造型になり、座り雛となりました。初期の作品は男雛の頭と冠が一体で、束帯姿、女雛は広がった袖に、袴に綿を入れ膨らませ、座った姿を表現しています。

【元禄雛】
寛永雛の流れをくんだ新しい様式の雛です。「源氏物語」をモチーフにした王朝風の雛など、この頃から人形製作も次第に技工が凝らされたものになっていきます。

【次郎左衛門雛】
京都の人形師、雛屋次郎左衛門が考案したというひな人形です。平安美の引き目鉤鼻に丸顔の素朴で可愛いらしい顔だち、「源氏物語絵巻」の描かれている大和絵風が典雅な雛です。

【亨保雛】
寛永雛が発達・高級化したもので、段飾りがあらわれる以前の江戸中期に町人階級が愛好しました。段飾りが未完成の時代だったので比較的大きく作られました。寛永雛に似た面長で、目は切れ長、少し口を開いた立体的な表情をしています。男雛は束帯姿で太刀を差し笏を持ちます。女雛は五つ衣で天冠をかぶり檜扇を手にしています。衣裳の着付けがやや直線的で図式化されているのが古典的です。

【有職雛】
正しい有職故実に基づいて公家方の装束を着せつけた人形です。目が幾分細く作られているものの、表情は個性的でより写実的になります。男雛は衣冠姿あるいは貴族の平常服である直衣姿、女雛は小袿で冠をつけず御垂髪(おすべらかし)です。公家方からの特別注文で製作した高級品で、季節ごとの着せ替え用装束を持つ雛もありました。

雛人形の飾り方

男雛はどっちに置くのが本当?桜は右?左?混乱しやすい雛壇の飾り方を紹介します

雛人形を飾るには、まず据える場所をきちんと決めてからひな壇を作りましょう。人形を扱う時には、できれば手袋を用意して下さい。素手で触ると手の油が付き、そこからカビが生えることがあります。

人形は中心を決めて左右バランスよく置きましょう。飾ってから、少し離れて眺め、バランスを見ると良いでしょう。

お人形が痛まないように飾るのも大切です。特に直射日光が当たる場所は厳禁です。乾燥し過ぎは人形にとって良くありませんし、紫外線によって衣裳が変色・退色することもあります。暖房の温風が直接当たるような場所も大敵です。

※京都風の雛人形を基本にしています
1段目 内裏雛(だいりびな)
(1)女雛
(2)男雛
京都風は女雛が向かって左にきます
2段目 三人官女(さんにんかんにょ)
(3)加銚子(くわえのちょうし)
(4)嶋台/三方
(5)長柄銚子(ながえのちょうし)
間に高杯を置く
※京都では三方ではなく嶋台(しまだい)になります
3段目 五人囃子(ごにんばやし)
(6)太鼓
(7)大皮鼓(おおかわつづみ)
(8)小鼓(こつづみ)
(9)笛
(10)扇を持つ謡い手
4段目 随身(ずいじん)
(11)右大臣
(12)左大臣
間に菱餅と御膳を飾ります
5段目 仕丁(衛士)しちょう(えじ)
(13)熊手/怒り顔
(14)ちりとり/泣き顔
(15)ほうき/笑い顔
※一般的には左から台笠、沓(くつ)台、立傘を持った衛士を飾ります。
6段目
7段目
道具類
箪笥、挟箱(はさみばこ)と長持、鏡台、 針箱、火鉢、茶の湯道具、御駕篭、重箱、御所車など

雛人形のしまい方

3月3日過ぎても飾っていたら婚期が遅れる?上手な雛人形のしまい方を紹介します。

大切なお人形を長持ちさせ、いつまでも楽しむためには、きちんとした保存が大事です。正しい知識を知り、愛情を持って大切に扱いましょう。
俗に「雛人形をしまうのが遅れると、婚期が遅れる」などと言いますが、もちろんこれは迷信です。後片付けをきちんとしなさいという「しつけ」が強調されて伝わったものでしょう。

本来は啓蟄の日にしまったそうですが、今は特にこだわらなくてもよいでしょう。お祝いが終わったら、早いうちに天気が良くて湿度の低いカラッとした日に人形をしまいましょう。

また、お子さんが大きくなられて、もう雛人形を飾らなくなってしまっても、できれば年に一度は虫干しのために箱から取り出して、空気を通してあげるようにしましょう。しまいっ放しにしておくと、カビが生えたり虫がわいたりして痛みやすいものです。その際に防虫剤を取り替えましょう。防虫剤の有効期限に合わせて虫干しするようにするといいでしょう。

お人形のしまい方ポイント

湿気大敵 お人形には湿気が一番の敵です。湿気が高すぎると顔や衣装にカビがついたり、衣裳の変色の原因となったりします。乾燥した日を選んで片付ければ、人形事体も乾燥しているので、湿気の予防になります。
保管場所は、上の方が湿度が低いので、押し入れの天袋などが良いでしょう。
乾燥しすぎも大敵 絵画などの美術品と同じで、逆に乾燥し過ぎるもの良くありません。エアコンの風が当たるような場所などにしまうのは避けましょう。
手の脂も大敵 シミや汚れの原因になります。できれば手袋を用意しましょう。
ホコリをはらう ホコリやゴミが付着していると、これが湿気をよんでカビが生えたり、衣裳の褪色の原因になったりします。やわらかい筆などでホコリを払ってくからしまいましょう。あまり擦ったりしないように、筆を動かした風でホコリを払うくらいの気持ちでやさしく払いましょう。
薄紙で包む ホコリを払ったら、柔らかい布や紙で包んでからしまいます。この時、強く包むと型くずれの原因になります。やさしくふんわりと包んで下さい。箱に納めたら、隙間に丸めた紙などを詰めて人形が箱の中で動かないようにします。
防虫剤に注意 虫除けに防虫剤を入れますが、人形用に最も適しているのは、ききめが穏やかで長期間効果があるナフタリン製剤です。
市販の防虫剤には、パラジクロルベンゼン製剤、ピレスロイド系製剤、樟脳などの種類がありますが、パラジクロルベンゼンはプラスチックと反応して溶かしてしまう恐れがあります。大量生産の人形の中には、内部にプラスチックが使用されているものもあるので要注意です。
ピレスロイド系製剤は防虫剤特有の臭いが無く、衣服用に人気がありますが、銅と反応し変色させてしまう場合があります。屏風などの小物には銅の合金が使われている場合があり、これもあまりお勧めできません。
樟脳でも結構ですが、和服の保存用として売られているものの多くは有効期間が6ヶ月と短いので、注意が必要です。
防虫剤は人形に直接触れないように入れましょう。
尚、防虫剤の併用は絶対に避けましょう。薬剤同士が反応してシミを作ることがあります。